コラム・レポート

教える力を学ぶ(斉藤 孝氏)

2023年02月02日(木)

「声に出して読みたい日本語」のベストセラーの著者で知られる斉藤 孝氏(以下講師)の講演会に参加。会場では最前列のほぼ中心で、講師の表情や動きをつぶさに見ることができた。今回は、教える力を学ぶという個人的な目標があったので、それに沿って3つの学びを紹介したい。

ひとつめ。「教師力」とは、ひとことでいうと、できないことをできるようにして自宅へ帰す力。そのために、言葉にイメージをのせて理解につないだり、雑談の中で本人の良いところをみつけて、褒めることで本人と対象となるものをつないでいく。また教師は教える対象に対して、「凄い」と思わせることも重要とのこと。

たとえば、イチローが凄いということを事例や特徴をわかりやすく伝え、聞いた人が「凄すぎる」と思えるようにすることで、その対象に関心や憧れを抱くようになる。このことが学ぶ人を変える力になる。従って教師にとって教科書は冷凍食品のようなもので、そのままでは伝わり辛いため、伝わるように解凍していくことが重要である。

ふたつめ。人とつながる力。それは、雑談力、コミュニケーションスキル。ポイントは3つ。会話は「笑顔で」「リアクションすること」「共感すること」。講師より、これまで日本人のこころというのは精神文化の上にこころがあったから、揺れなかった。しかし、戦後外国の文化が流入することによって、精神文化が欠如し、こころが揺れている。つまり、外からあるいは中からの問いにこころは揺れ動くものであるから、定まらない。生きる力もまた脆弱になっている。(この表現は講師が言っていた訳ではありません、私が捉えたイメージ)

よって、人とつながることは、自分が強く生き抜くための力でありながら、同時にその力は、周りの人々を生かす力にもなる。更に、人は話すことで救われ、聞いてもらうことで癒やされる。だからこそ、つながる力は大切で、つなげようという意識とちょっとの努力を惜しまないことである。

ようやく3つめ。声と脳はつながっているという。声に出して日本語を読む。その際、イメージを言葉にのせることが大切。たとえば「古池や 蛙飛び込む 水の音」という松尾芭蕉の俳句があるが、古い池に蛙が飛び込む音が聞こえるということは、どれだけ静寂なのか。その情景を思い浮かべてみる。

たとえば、うっそうと茂った林の中、それとも寺の近くにある池を頭の中で思い浮かべる。そのような情景を頭の中に描くことで、感情が一気に入ってくる。声に出して詠んでみることで聞き手が思わず、共感できるような場をつくる。相手に伝えるため以外にも、音読することでその情景がこころが入ってくる。よって、声で伝えることで、脳につながるという。

最後に、日本人として精神文化を持つことの大切さを話された。それは「智」「仁」「勇」の3文字。ネットで調べてみると、「智仁勇」は武士の三徳といわれている。「智は人に談合するばかりなり」(人と語らい、相談せよ)。「仁は人の為になる事なり」(人のためになることをせよ)。「勇は歯噛(はがみ)なり」(歯を食いしばれ)、それに尽きると(岩波文庫『葉隠』)。「智」「仁」「勇」を軸にして、その上に変わる(こころ)を置くことが大切だという。


 カテゴリー : コミュニケーション